明治屋クラムジー

 

そんな、結婚を目前にしたある日のことだった。八重の元に、二人の男が訪ねてきたのだ。
 

 
「急な参上で申し訳ない。私共、前園財閥の者であります」
 

 
そう言って、二人の男は頭を下げた。訳が分からず、八重はミツを呼ぶ。
ミツにも心当たりはないらしく、神妙な面持ちで奥から出てきた。
 

前園とは、この町内に莫大な支援を行なっている大財閥の名前だ。
町民で、まず逆らう者はいない。
 

 
「あの、何か……」
 

 
ミツがおずおずと尋ねると、片方の男は言った。
 

 
「あまり構えないで下さいませ。私共は使いの者ゆえ、前園財閥の御子息である利彦様の言付けを伝えに来たまでです」
 

 
町娘の自分に一体何の用だろうと、八重は更に構えた。ミツは事を察したように口元へ手を当てている。
 

 
「利彦様が、小塚八重殿に結婚を申し込みたいと」
 

 
八重とミツは絶句した。