明治屋クラムジー

 

ちょうど端午の節句なので、八重はその帰り際に、「松野屋」主人の重勝の元へ立ち寄った。毎年、重勝に柏餅をこさえてもらっている。
 

 
「八重ちゃんか!いやあ、これは見違えたなぁ」
 

 
嬉しそうに言う重勝を、八重は照れ臭そうに見上げた。八重は弥一を紹介して、今日写真を撮ってきたことを伝えた。
 

平屋へ戻ってきた四人は、別々に寛いでいた。八重は生まれて初めて着た洋服を脱ぎ、いつも着ている着物へ着替えた。
やはり、着慣れた着物が動きやすい。
 

 
「大切にします、この写真」
 

 
写真を何度も眺めてはニコニコと微笑む八重に、弥一も思わず頬が弛む。
八重はその写真を大切に帳面へ挟むと、木でこさえられた机に置いた。
 

 
「お茶いれたから、柏餅を食べましょう」
 

 
盆に湯飲みと急須を乗せたミツが、座敷へ戻ってきた。香絵も足を崩して、我が家のように寛いでいる。
 

 
「重さんの柏餅、美味しい」
 

「本当ね。毎年節句の日は休みにするのに、柏餅だけは作ってくれて嬉しいわ」
 

 
そんな会話をする親子を、弥一は眺めていた。