「八重。笑顔だよ」
そんな風に弥一が言ったのを境に、その場は緊迫とした雰囲気になった。
「それじゃあ撮るからね。十秒程じっと、動かないで」
行くよ、と、主人の声だけが響く。
表情が強張らないよう、八重は努めてカメラに向かって微笑んだ。
弥一がどんな表情をしているかは、まだ全く分からない。写真というものが出来上がったら、きっとまた二人で笑うのだろう。そんなことを思いながら、撮影を終えた。
「よし、いいぞ。それじゃあ、隣りの待合室で暫く待っていて下さいな」
主人に促され、二人はほうと一息吐く。
ミツと香絵が見守る中、二人は手を繋いだまま待合室へ向かった。それに倣って母親達も待合室へ向かう。
出来上がりが楽しみだと言う弥一に反して、写真というものを見たことがない八重は緊張していた。
暫くして、待合室に主人が出来上がった写真を持ってやって来た。
「出来ましたよ。いい出来だ……。良ければ焼き増ししましょうか」
「焼き増し?」
「同じものを現像することができるんですよ」

