幸いにも、最近近所に写真館というものができたのを、弥一は知っていた。
普及されていないだけに、その写真館へ足を踏み入れても客足は少ない。
「記念に、写真を撮りたいんです」
写真館の中へ入ると、主人を見つけて弥一が話し掛けた。振り返って弥一や八重の存在を確認すると、主人は微笑んだ。
「いらっしゃい。たまげた、こりゃあ別嬪さんだねえ」
そんな風に世辞を言った主人は老眼鏡を掛け直して、奥の部屋へと四人を導いた。
ミツと香絵は部屋の隅で初めて見る「カメラ」というものに、興奮して目をキョロキョロさせていた。
「奥さん達は撮らないのかい?」
「ええ、私達は」
主役はその二人ですからと、香絵が言った。当の二人はというと、一体何をすれば良いか分からず、手持ちぶさたに立ち尽くしていた。
主人に言われた通りに、八重と弥一はカメラの前に立った。
弥一は八重の右手を握って、カメラの方を見据える。

