隣りの部屋へ移動した八重が見たのは、西欧の着物だった。つまりは洋服である。
近所で西欧かぶれという噂の、田岡という家がある。その田岡家から、ミツ達が借りてきたものらしい。
見れば見る程、それは日本の着物と異なっている。前で左の布を上にして合わせる着物ではなく、後ろで布をとめるらしい。
「これっ……」
「やっぱり八重は白無垢かなあとは思ったんだけど、借りてしまったから着てみるだけ着てみなさいな」
ミツが嬉しそうに微笑んでいる。それから香絵が、八重に着物を脱ぐよう促した。
八重は肌襦袢を脱ぎ、自分でその袖へ腕を通すと、ミツに背後にあるボタンをとめてもらった。
「……お母ちゃん、恥ずかしいよ」
「八重ちゃん、よく似合ってる!」
「弥一君は気に入るかしらぁ」
盛り上がる母親達に背を押され、弥一のいる座敷へ戻ることになった。
八重は恥ずかしくて仕方がない状態で、スカートと呼ばれる長い丈に戸惑っている。
「どう?弥一君」
「えっ……」

