ふいに、辺りは真っ暗になり、空気が変わる。


「来たな。」


「えっ!?何??」


塗師君の目の色が赤に変わる。


さっきまで周りに人が居た筈なのに、気が付くとその空間には私と塗師君だけになっていた。


「いいから出てこいよ。」

塗師君は誰も居ない空間に向かってそういい放つ。


「何?何なの?」


わけがわからなくて、ただこの雰囲気が怖くて塗師君の後ろに隠れる。



「ヨコセ……」



低いうなり声。

目の前の角。
ブロック塀の影から見たこともないくらい真っ黒なオーラを纏った人が現れる。


様子がおかしい。
凶暴な野犬のようにうなり声を上げながら私たちに近付いてくる。


「やっ、何っ?」


怖いよ。
こんな強いオーラ、初めて見る。


「これが悪魔の本質だ。」

塗師君は鞄からあの黒い小瓶を取り出し、悪魔に向かって手を伸ばす。


何か小さく呪文のようなものを唱えている。


「ゥガァァ……」


苦しそうに悪魔はもがく。
喉をかきむしり、歯を剥き出しにして。


これが……人間なの。
っていうくらい異様な姿になってしまっている。

怖くて、見たくなくて、目を瞑り、塗師君の背中に隠れていた。





「おい、いつまでしがみついてる気だ?」


しばらくして声を掛けられて目を開ける。


「終わったの?」


辺りはいつもどおりの空気に戻り、私たち以外の人の話し声や生活音が聞こえてくる。

「終わった。」



その一言にほっとする。


「あの人は?」


そういえば、オーラを取られた人がどうなるか聞いてなかった!
まさか、死んじゃったりしてないよね??




塗師君の視線の先にはひとりの人間が倒れている。

たっ!
助けなきゃ!!


その人の近くに駆け寄る。


「大丈夫ですか??」

軽く揺さぶってみる。

あれ?
この子……。


「山田君?」