緑が生い茂る森の中に、突如、けたたましい犬の鳴き声が響き渡った。
尋常でない吠えように、少女は花を摘む手を止め、思わず顔を上げた。
立ち上がると耳をすませ、犬の鳴き声がする方へと足早に進んでいく。
すると、舌をダラリと出しゼイゼイと息を荒げた大型の犬が姿を現した。
「あずき! どうしたの?」
その犬の飼い主である少女は、普段なら大人しいはずの飼い犬の変わり様と、口にくわえている奇妙なモノを交互に見比べ、眉間にシワを寄せた。
何がなんだか、と困惑する少女だったが、いつもとは何かが違うと感じた。
アズキが、その口にくわえていたモノを、ボトリと地面に落とした。
落下したそれは、アズキのヨダレにまみれてベトベトになっていた。
「なんだろう、これ……」
少女は近くに落ちていた木の枝で、そっと、その黒くて四角い、プラスチックのような、石のような物を突いてみた。感触は硬く、突くとカツカツ音がなった。
すると、アズキは再び吠えだし、目の前から駆け出していった。
「あっ、待て!」
飼い主の呼び掛けを無視し、猛ダッシュで駆けて行く飼い犬、アズキ。
少女は、何かあったのだろうか? とちょっとした不安を抱きながらも、アズキの後を追って走りだした。
足を踏みしめる度、地面に茂った雑草が軋む音がした。
風が吹き抜け、木々の葉がザワザワと語り掛けるように揺れている。