「なぁ、山北って何なん?」
「へ?」
一瞬、言われた名前を考えなきゃ思い出せないくらいに妄想の世界にドップリ嵌ってしまっていた。
「会社の人だよ」
「それだけ?」
「うん」
あたしの即答に黙まってしまう。
こうやって後ろから抱きしめられているのに、
この沈黙があたしを不安にさせる。
ねぇ、仁。
何を考えてるの?
もしかして……。
また、あたしが悪い方向へと考え始めた時だった。
「山北って奴……嫌い」
え、嫌い!?
嫌いって何!?
さっきまで、もう仁とは終わりだと思ってたくせに。
さっきまで、そのことで泣いていたくせに。
さっきまで、不安だったくせに。
この世の終わり、
そんな気分だったあたしなのにね。
首を動かし、
振り返った先に真っ赤にした仁の顔があったから。
それだけで、
あたしの
馬鹿な妄想や、
考えや、
不安が
全て消えたんだ。
単純過ぎるかもしれないけど。
その前に、こんなことでここまで考えていたあたしが馬鹿過ぎるかもしれなくて。
周りには理解出来ない。そういわれることなのかもしれないけど。
たったこれだけのことが、
どんなに嬉しくて幸せだなのかなんて、
あたしにしか分からなくていい。
いいんだ。

