「綾さん?」
名前を呼ばれ顔をあげると、
少し哀しげな仁の笑顔。
「楽しなかった?
綾さん哀しそうな顔してる」
「ううん! すっごく楽しいよ?」
慌てて、首を振った。
「嘘。何かあったやろ?」
何か。
何かあったのかな?
あったとすれば、山北さんのセリフ。
“大人の余裕”
あたしには、なさ過ぎるんだ。
ううん。
大人の余裕なんて……全くない。
仁を、あたしだけのものにしたくって。
あたしだけしか見えなくなればいい。
あたしと仁しか居ない世界になっちゃえばいいのに。
そんなことを考えてるんだもん。

