「綾さん」
待ち合わせの場所に到着してすぐかけられた声に振り返ると、
いつも通り優しい笑顔の仁がいた。
キューンって音を立てる胸。
仁の笑顔を見ただけで、
仕事の疲れとか飛んじゃった。
恋は本当に恐ろしい。
あたし専用の淡いピンクのヘルメットで
頭を軽くコツンって叩かれて、我に返った。
「また独りの世界入ってるって」
ニヤって笑う仁に、
恥ずかしさでピンクに染まった頬を隠すように下を向いて謝った。
「ん。いつもの事やから気にしてへんけどな?」
そう言いながら、
ヘルメットを渡す仁から受け取る。
最近は、この時間が1番好き。
あたしのことを分かってくれてるんだなぁ。
って思う瞬間。
仁の跨るバイクの後ろで
これでもかってなくらいに抱きついて。
背中から伝わる温もり。
ふんわり香る甘い香水の匂い。
トクン、トクンって心臓の音。
全てが仁包まれてる時間。

