「どうしたん?」
仁があたしの顔を覗き込み、不思議そうに見つめた。
「ううん! 何でもないよ!」
あー……。
こんなちょっとしたことが聞けないのって、やっぱり駄目だよね。
さっき喋ってた子?
とか軽いノリで聞けばいいだけのことなのにさ。
“お返し”って言ってたよね、あの子。
それって……もしかして“れいこ”って子なのかな。
腐れ縁っていってるのにバイトも同じにするかな。
あー、駄目駄目!
頭の中に浮かぶ小さな疑問が少し大きくなって、あたしは頭を軽く振った。
山北さんと千恵が変なこと言うから悪いんだっ。
意味深なかじゃない。
カモフラージュなんだ。
プラス思考に考えるけど、
どうしても山北さんと千恵の言葉が脳裏をかすめる。
「綾さん」
「へ?」
気付けばバイクの前に立っていた仁は、
あたしに淡いピンクのヘルメットを差し出した。
「どうしたん? やっぱ何かあった?」
少し心配そうにする仁から、
ヘルメットを受け取ると、
おもいっきり首を横に振る。

