角を曲がり、目線をあげた瞬間。
「綾さんっ!」
バタンッとドアの閉まる音と同時にした仁の声。
ちょっと乱れた格好を直しながら、笑う姿。
「仁、早くない?」
「めっちゃ急いだ」
「あは。襟立ってるよ?」
「え!? ださっ」
そう言いながら慌てて襟を正す。
こんなちょっとしたことを
嬉しく思ってるなんて仁は気付いてないんだろな。
急いでくれたのって……あたしの為、だよね?
「ごめんなぁ、待たせて」
「ううん、全然!」
「バレンタインもやし、ホワイトデーもなんて……」
「本当に気にしてないって。あたしも今日、仕事だったしね?」
「ん。でも新しいバイト入って来てるから、もうちょい休み取れるようなるし」
「あ、そうなんだ」
それって、あの子のことかな?
さっきの女の子の顔が頭に浮かぶ。

