燎は、全てを兵藤に話した。
兵藤は黙って、時折相槌を打ちながら聴いてくれた。

「ふむ。その得体の知れない何かが、犯人だと。そして結果として、罪をお前になすりつけた…」
「えぇ。」

兵藤は被りを振った。

「正直、儂にも信じ難いが、嘘ではない事は、お前の目を見れば分かる。」
「……」
「それにその入れ墨のようなもの。信じない訳には行くまい。」

その時だった。
ズシャーッ……ララララ………
突然、天井が崩落した。
「何だ!?」

埃の舞う先に現れたのは、あの日の異形の怪物だった。
「お前はあの時の!!」

「クシュルルル…」
気味の悪い声。
烏賊と蛸を合わせて、そのまま人型にしたような悍ましい姿。目玉は絶えず左右前後に動いており、全身はヌメリを帯び、歩く度にそのヌメった汁で床が濡れる。

「クシャアァァァッッ」

怪物は突進してきた。と思った時には、既に燎の首を締め上げていた。

「ぐあぁっっ!!」

燎は咄嗟に蹴りや拳を打ち込んだが、効果は全く無かった。

窒息寸前の、薄れ行く意識の中で、何かが沸き上がるのを感じた。

全身が熱い。まるで炎の中にいるように。

それは気のせいでは無かった。燎の入れ墨が熱と光を発し、燎の全身は炎に包まれた。

怪物は驚いたように、燎から離れた。

炎上する燎を前に、兵藤は立ち尽くした。
(燎……お前は一体…)