「裕美!」


ケンジはそう叫ぶと、取り乱しながら六帖ほどの自分の部屋の中を、あるはずのない裕美の姿を探して見回した。



裕美は、まだ側にいる。



しかし同時に、二人の間には残酷なまでの距離がある。



すぐ側にいるというのに、その頬に触れることも出来ない。


その笑顔を見ることすらもできない。



日記に書き加えられた文章からは、ケンジのことをただひたすらに思う、切ない裕美の想いだけが伝わってくる。


その胸を締め付けるような思いが、なおさら苦しい。



ケンジは乱暴に日記を手に取ると、胸に抱え力の限り抱きしめた。



今、裕美に触れることなど出来ない。


でも、そのぬくもりが感じられるこの日記を、ケンジは胸に抱かずにいられなかった。




そんな苦しむケンジの肩に、裕美の小さな手が優しく置かれていた。