葬儀の翌日、ケンジは朝日の差し込む自分の部屋のベッドに、身を投げ出すように寝そべっていた。



窓の桟に置かれたラジオからは、甲子園大会の実況が聞こえてくる。


しかめ面をしたケンジは、上半身を起こすと、ラジオに手を伸ばして電源を切った。



そして重い足取りで床に足をつくと、寝不足で痛む頭を押さえて窓のそばに歩み寄った。


外からは、楽しそうに話す子供たちの声が聞こえる。


ケンジがカーテンをまくって窓の外を見ると、入道雲が立ち上る青空の下、蝉取りの網を持って駆けて行くいくつかの小さな後姿が見えた。



ケンジは、今日すでに何度ついたかわからない溜息をつくと、だるそうに再びベッドに身を預けた。



その時、一階でドアフォンが鳴った。



なにやら母親が出て対応していたが、やがて大きな声がケンジの耳に入ってきた。


「ケンジ。お客さんよ。」



誰だろう、ケンジは不思議に思った。


ろくに帰ってきたことのない自分を、一体誰が訪ねてきたのであろうか。



疑問を抱えながら、ケンジが寝転んでいたベットから起き上がって下へ降りていくと、階段の下にある玄関には一人の女性が立っていた。


その顔に残る面影を見た瞬間に、ケンジには初めて会うその人が誰であるかがすぐにわかった。



「裕美の母でございます。」


ケンジは戸惑いながら、小さく会釈をした。