「全く・・・。恥ずかしいよ。」

ケンジはそう言って左手で野球帽を取ると、右手で何度か頭を掻いた。


その様子を見て、土門は真剣な表情になると、スタンドに座る裕美のほうを見た。

「でも、たいした度胸じゃねえか。」

そう言ってケンジのほうに向き直ると、キャッチャーミットでその右肩を軽く叩いた。



「お前も、こんなピンチでびびってんじゃねえよ。」

「いや、別に・・・。」

「さあ、まだ同点だ。このバッターをうち取って、次の回に勝ち越せばいいんだ。」

土門はケンジの言い訳をさえぎると、のっしのっしとホームプレートに戻っていった。



ケンジは小さくため息をつくと、スタンドに座る裕美の姿をじっと見つめた。


両手を合わせて、ぐっと祈るようにこちらを見つめるその様子を見て、ケンジは小さく頷いた。




最後の夏、次の一球に思いを込めよう。



ケンジは、右手に握った白球に力を込めた。