「ケンジくんだったら、きっと大丈夫。」

そう言って何度も頷く裕美に、ケンジは何も答えられない。

ただ沈んだ目で見返すことしか出来ない。


そんな二人の頭上の木々からは、無数の美しく色づいたさくらの花びらが舞い落ち、裕美の髪の毛を綺麗に彩っていく。


ケンジたちが坂の途中までさしかかってくると、たくさんの記憶が詰まった野球場が見えてきた。

夜遅くまで白球を追うだけのケンジの毎日を、裕美はスタンドに座って楽しそうに見ていた姿を今でも覚えている。



しかしそれももう、過去のことだ。