そして、ゆっくりと大きく一礼をすると、こぼれんばかりの笑顔を浮かべ、そして裕美は静かにケンジに背を向けた。


呆然と立ちすくむケンジを残して、一歩一歩踏みしめるように歩くその後姿は、少しずつ小さくなっていった。


その背中を、ケンジは身動きひとつ出来ずに、ただ立ち尽くしてその後姿を見つめることしか出来なかった。



その姿は、やがて坂の下へと消えていった。




しかしケンジの頬に残る唇の感触は、いつまでも消えることはなかった。