その言葉に、ケンジの心は泣き崩れた。



自分よりも何倍も、裕美は孤独で、不安で、辛いだろう。


この街に別れを告げる裕美は、どんなにか辛いだろう。




さよならをいわなきゃ。


でも言葉が出てこない。


別れを認めたくない。





時計の針は、あと数分しかない時を示していた。





裕美は笑顔で頷くと、なにも言わずにゆっくりと背中を向けた。


すると、裕美の頭上から差す二条の光は、ますます強くなっていった。


それらの光る腕は、道しるべのようにまっすぐに地上へ向かって降り注ぎ、それに両手を引かれるかのように、裕美は天への階段を上り始めた。



「裕美!」


ケンジは弾かれたように、声を振り絞って叫んだ。




その声に、裕美は足を止めた。




そして、ゆっくりとケンジのほうを振り向くと、じっとその顔を見つめた。


その悲しげな瞳を見た時、初めてケンジは全てを覚悟した。



ケンジは、その両手を口の両脇にあてると、力いっぱい叫んだ。


「卒業してから俺だって…。俺だって、ずっと、ずっと裕美のこと思ってきた。」


その必死の形相に、裕美の顔には満面の笑顔がこぼれた。



すでに裕美の姿はほとんど透き通ってしまっていたが、ケンジには裕美が笑顔で頷いたのが確かに分かった。




「俺も、君がいたから頑張れた。高校時代も…ずっと、ずーと。」


ケンジは溢れる涙を、右手で拭った。そして大きく息を吸うと、のどが裂けんばかりに叫んだ。



「さようなら!君を好きになって、本当によかった!」


そう言ってまっすぐ見詰めるケンジに向かって、裕美はうれしそうに何度も頷いた。




天より差し込む二本の光も、一瞬、明るく輝いたように思えた。