二人はコンビニエンスストアで弁当とお茶を買うと、学校へ向かった。


そして校舎のある丘を上る途中にある、あの野球グランドの内野スタンドに腰を下ろした。



「すごい日差しだね。」


夏の太陽にを左手で遮りながら、裕美はそう言った。



「木陰に行こうか?」


ケンジはそう言ったが、裕美は大きく首を振った。



「ううん。ここがいいの。」


裕美はそう言うと、気持ちよさそうに両腕を広げて、大きく息を吸い込んだ。



「この場所はね、ケンジくんのいたピッチャーマウンドとブルペンが、一番よく見渡せるところなんだ。」


「そうなのか。」


ケンジはそう返答すると、胸が熱くなった。



裕美はいつも、ケンジのことをこうやって見ていてくれたのだ。



「だからここがいいの。」


裕美はきっぱりとそう言った。



ケンジは青草に腰を下ろしながら、グランドを見つめた。


これが毎日、裕美が見ていた景色なのか。



「ねえ、ケンジくん。」


「何だ?」


ケンジは詰まりそうなのどを気づかれんと、必死に平静を装ってそう尋ね返した。



「私も、ケンジくんがマウンドで見ていた景色が見たい。」


にっこりとしてそう言う裕美の顔を見て、ケンジは迷った。



グランドには部員やOB以外は入れないことになっている。


しかし、今日はお盆で、練習は午前中で終わっており、あたりには誰もいない。



「分かった、行こう。」


「駄目。」


しばらく考えていたケンジが、決心して腰を上げようとしたとき、裕美がそう言って制した。



「ケンジくんはここにいて。マウンドからケンジくんを見たいの。」


「…分かった。」


裕美はケンジの返事ににっこりと微笑むと、スタンドを駆け足で駆け下りて行った。