「裕美は会わないほうが、よかったと思うか。」


ケンジは何かに恐れるように、そう尋ねた。



「正直分からない。でも身を裂かれるようなこの苦しさと、包まれるようなこの幸せがなくなったら何が残るのかな、とも思う。」


「…。」


「恋人を愛する気持ち、親が子に思う情、子が親を思う心、どうして抑えきれないほどの激流になるんだろう。」


裕美はケンジの肩から頭を離すと、柵に両手を突いて次々に広がる花火を見つめた。



海からは強い風が吹き続き、なびいた髪を裕美は軽く抑えている。



「その答えが出たとき、私は何の未練もなく、お父さんの待つ天に召されることが出来るような気がするんだ。」


ケンジは、自分なんかよりもはるかに深い苦悩を、裕美の心の中に垣間見たような気がした。



その時、連続花火が上がった。



二人の目の前で、小さな花火の輪が次々と夜空に打ちあがり、その群れは徐々に大きくなって、最後に大きな光の輪が夜空一杯に広がった。



「すごい。」


そう言いながら無邪気に手を叩く裕美の顔には、先ほどまで発露していた悩みの感情など、すでに消えうせているように見えた。



ケンジは思った。


あと少ない時間しか残されていない裕美は、そのわずかな時間を一生懸命生きている。



そんな裕美の思いに、自分は応えられるのであろうか。




そう思うケンジの視線がやや足元を向こうとした時、最後の大きな花火が打ち上げられた。



その音にケンジが顔を上げると、すでに花火は暗い夜空へと消えていた。





そんな迷い続けるケンジの横顔を、裕美はじっと見詰めていた。