駐車場の柵に両手を着きながら、巨大な岩の向こうに見る花火は最高にきれいであった。


この駐車場から花火が見えることは誰も知らないのか、あたりにはケンジたち以外には誰一人いなかった。



夜空に大輪の花を咲かせ、そして消えていく花火。


裕美はその輪が開くたびに、手を叩いて歓声を上げた。



そんな裕美の、光に照らされ浮かび上がる横顔を見つめながら、ケンジはぼんやりと考えていた。



こんなに元気なのに。


まもなくこの世からいなくなってしまうなど、ケンジにはとても信じられやしなかった。



「すごいね。あの浜辺から遠くに見えた、小さな花火とは思えないよ。」


裕美はそう言うと、あの時と同じようにケンジの左肩に頭を乗せた。



その温もりが、ケンジの心をさらに締め付ける。



「なあ、裕美。」


「なあに?」


ぼそりというケンジの肩に身を預けたまま、裕美は聞き返した。



「もしも、俺たちが出会わなければ、どうなってただろう。」


「というと?」


裕美はそう言うと、穏やかな表情でケンジの顔を覗き込む。



「もし出会わなければ好きにもならなかっただろうし、こうして苦しむこともなかっただろう。」


そんな苦悩するケンジの呟きに、裕美はゆっくりと目をつぶり、そして静かに言った。



「うん、そうかもしれない。そっちのほうがよかったかもしれない。」


花火が空に広がった。



そんな予想もしない裕美の返答に、ケンジは驚いて裕美の横顔を見た。




しかしその相変わらず穏やかな表情からは、その心中は何も読み取れなかった。