「いいか、ケンジ。裕美は限られた時を、一生懸命悔いの無いように生きようとしているんだ。そんな彼女の気持ちを、お前は受け止めてあげられないのか。」
土門はそう言うと、力任せに右のこぶしで横の芝生を殴った。


「なあ、ケンジ。」

「…。」

その剣幕に、何も答えることの出来ないケンジに向かって、土門は吐き棄てるように言った。


「裕美は、もうすぐ本当に死んじまうんだぞ。」

その言葉にケンジの心は、鋭い刃物にえぐり取られた。


何を自分は勘違いをしていたのであろうか。


横で闊達に笑う裕美は、もうこの世の人ではないのだ。

その残された魂ですら、まもなく消えてしまうのだ。

そんな裕美の心中を、自分は幸せな時間のあまり考えるのを忘れていた。


「土門…。」

ケンジはそうとだけ言うと、その両手で顔を覆った。

そんな親友の背中に、土門はその左手を置いた。


「ケンジ。泣いちゃいかんぞ。もうすぐ裕美が帰ってくる。」

諭すようなその声に、ケンジは何度も何度も頷いた。


そんな二人が座る丘の下では、立ち並ぶ縁日の楽しそうな音楽が流れていた。