夜は十時を回っていた。



奈央は、ケンジからの信じがたい電話を受けて家を飛び出した。


どこをどう走ったか分からない。



学校へと続く坂のふもとにある公園の入り口を入ると、奈央は悲鳴にも似た声を上げた。



「裕美ぃ!!」


裕美よりも更に小さな体の奈央は、裕美の体に飛び込むと嗚咽にむせこんだ。



「裕美ぃ…ごめんね。私が止めなかったばかりに、こんなことになって…。ケンジ君にも辛い思いをさせて…。」


裕美は途切れ途切れにわびる奈央の頭を、まるで妹をいたわるようになでた。



「そんなに自分を責めないで、奈央。あなたのせいじゃないのよ。」


裕美はそう言うと、走ってきたため乱れた奈央のピンクのワンピースの襟を直した。



「ほら。あんまり泣くと、かわいい顔が台無しじゃない…。」


奈央は裕美にそう言われて、何度も何度も頷き、涙をこらえるように右手で両目を何度も拭った。



しかし、拭っても拭っても、涙は溢れてくる。



そんな奈央の頭を、裕美がその小さな指で優しく撫でた。



その時、ジーンズに白いブラウスを着た香澄が、夜の帳が完全に落ちた公園の入り口に現れた。


香澄を歓迎するかのように、左右の木が風に揺られてざわざわ、と音を立てる。