ケンジはガードレールに腰をかけた。


夏の太陽に照らされたアスファルトの熱さに、吹き出る汗を額から流しながら、自分の無力さ、ふがいなさを思った。



裕美。やっぱり俺、笑えないよ。



ケンジはそう心の中で裕美に語りかけると、何度ついたかわからないためいきをついた。



一体、自分は何をしているのであろう。


土門は働きながら、今でもプロ野球の夢を本気でかなえようとしている。


尾上は医者を志し、必死に勉学に励んでいる。


香澄や奈央だって、社会に出て一人前になろうと一生懸命働いている。



でも自分は、一体何をしているのであろう。


裕美の強がりに気づきもせず、簡単に彼女を手放してしまった。


手放したというのに、彼女に対する未練からさよならの一言すら言えなかった。


そして、彼女を忘れることは、ついに出来なかった。




会いたい。




ケンジの胸に、この時初めて素直な言葉が浮かんだ。



裕美に会うことを放棄した自分が、最後に会ったのは高校生の裕美だった。




それから過ぎた二年の月日は、彼女をどう変えたのであろう。




きっと、素敵な女性になっていたに違いない。




しかし、必死に働き続けた裕美の、卒業後の写真は、誰も持っていなかった。


土門も尾上も、香澄や奈央でさえも裕美の写真は持っていなかった。




それほど裕美は、寸間も惜しんで、母のために働き続けていたのだ。




会いたい。


会って、さよならを言いたい。


裕美がもう自分が何をしようが、手の届かないところ行ってしまう今、自分の気持ちに区切りをつけたい。



それが、区切りをつけようとした彼女から、逃げてしまった自分がすべきことなのだ。