ケンジは高校のグランドに横付けにされた土門の車に乗る、親友に向かって軽く手を振った。



そして土門の4WDの車のテールランプが見えなくなると、ケンジは自転車を置いてある部室とは反対方向に歩き始めた。



夜上る坂は、昼のそれとは全く違って見えた。



途中にあった街灯が、一人坂を上るケンジの姿をぼんやりと照らす。


ケンジがまぶしそうに見上げると、多くの虫がその真っ白な明かりに群がっていた。




ケンジは目を落とすと、じっと足元を見つめたまま、緩やかにカーブを描く坂を上り続けた。


その足取りは限りなく重く、まるで暗闇の中の見えざる手に、足首を鷲摑みにされているかのように感じられた。




やがてうっそうと繁った桜並木が途切れると、視界が一気に開けた。




ケンジが顔を上げると、ガードレールの向こうに街の光に彩られた夜景が広がっていた。




それは、今のケンジには明る過ぎた。