土門は一瞬、躊躇した。



しかし、裕美の笑顔に引かれるように、練習の道具の入ったバッグの雪を払い胸に抱えると、裕美の横に腰を下ろした。


裕美は、両手に白い息を吐きかけると、ダッフルコートのポケットに手を入れた。


裕美の家の家計は厳しく、手袋やマフラーすら買う余裕がないことを土門も知っていた。


土門は、慌てて自分の手袋を脱いで裕美に渡そうとしたが、裕美は小さく首を振りながら左手で制した。


裕美は、真っ白なグランドに視線を戻すと、まっすぐに降り積もった雪を見つめた。



「このグランドを見ていると、ケンジくんを思い出すんだ。」


「そうか。」


土門は、ただ小さく頷いた。


この時、土門は単純にケンジが受験している間、会えないことが寂しいのだと思った。




土門は、二人が別れたことを知らなかった。