土門は芝生に寝転ぶと、うつろな目で空を流れる真っ白な雲を見つめながら言った。


「俺たちにも、あんな頃があったな。」


「ああ。」


「あの頃は、ただひたすらに白球を追っていれば、それでよかったんだよな。」


土門の言葉を聞きながら、ケンジは何も言わず、ただ芝生に座って後輩たちの練習を見ていた。



「いや、それだけでよいと思っていた。」


土門は、そう言いなおすと、上半身を青臭い夏の芝から起こしてひざを両手で抱えた。



「でも、それは違ったんだ。」


じっと地面を見たまま、土門はうつむきながらつぶやくように言った。



「野球をしている俺たちがいて、それを見ながら芝生で参考書をめくっていた尾上がいて、グランドの横を下校していく香澄や奈央がいて、そして…。」


土門は顔を上げると、ケンジの顔を見つめた。


「そして、お前を応援する裕美がいた。」



ケンジは表情を変えずに目を伏せた。



そんなケンジを無視するかのように、土門は語り続ける。