「あのさ。」

「なに?」

ケンジが顔を上げて、裕美のほうを見ながらたずねると、裕美はケンジの顔を穏やかな表情で見つめ返しながらそうとだけ答えた。


そんな曇りのない裕美の顔を前に、ケンジは一瞬照れくさそうに目をそらした。

しかし小さく息を吸うと、もう一度裕美のほうを見直した。


その顔は真剣であった。


そのあまりに堅い表情に、裕美も思わず姿勢を正した。



「裕美。」

そうとだけ言うと、ケンジはじっと裕美の足元を見た。



そこには昼間、仲間たちと一緒になってとった貝が、山盛り網の中に入っていた。