「ところで、今日は二人一緒だったのか?怪しいな。」


「そんなんじゃないよ!」


ケンジをからかう土門の言葉に、奈央が向かいの席から声を荒げた。



その予想外の反応に土門は驚き、ケンジの表情を覗きこみ、少々落ち込んだように黙り込んだ。


「気にするな、土門。みんなが来たら話すよ。」


土門は豪放なイメージがあるが、実は誰よりも繊細である。


そんな性格を知っているケンジは、失言をしたことに気がつき消沈している親友に向かって優しくそう言った。


そんなケンジの様子を見て、奈央はむきになってしまった自分を情けないな、と思った。



カランカラン。



その時、レストランの扉の鐘が音をたてた。



「遅れてごめん。最後のお客さんが、なかなか終わらなくて。」


勤務する美容院の帰りなのであろう。


ジーンズにタンクトップといった、ラフな格好をした香澄がそう言うと、その後ろで声がした。



「なあ、俺入れないんだけど。」


その声に香澄が驚いて振り向くと、そこには尾上が立っていた。


綿のパンツに白のポロシャツを着た姿は、いかにも真面目な医学生といった風情である。



「全く。意地悪だなあ、相変わらず。」


そう不平を言う香澄の顔を見て、尾上はにやりと笑うと、その横を通り過ぎて土門の右隣に座る。


そのそっけないそぶりを気にするでもなく、何事もなかったかのように、香澄も奈央の左隣に座った。