「どうした?」


突然の涙にうろたえるケンジに、奈央は必死で言葉をつないだ。



「このお店で、私は裕美に相談されたの。」


奈央は零れ落ちる涙を必死に拭いながら、懸命に話した。



「その時私は、絶対にケンジくんに会いに行くべきだって、疲れた体に鞭を打ってでも行くべきだって、そう強く勧めたの。」


奈央はこらえきれずに、両手で顔を覆った。



「私が、裕美を殺したの…。」


奈央の必死の告白に、ケンジは小さく首を振った。



「そうじゃないよ。奈央のせいじゃない。」



どこまでも優しいケンジの口調に、奈央はゆっくりと顔を上げた。



「君のせいじゃない。」


苦しみぬいた顔で見つめる奈央に向かって、ケンジは出来る限り穏やかな表情で、大きく頷いた。



「裕美は、たとえ奈央が必死に止めたって、きっと東京に行こうとしたと思う。」


ケンジはにっこりと笑って言った。



「裕美は、そんな子だ。」


そう言うと、ケンジはポケットからくしゃくしゃの青いハンカチを取り出し、そっと奈央に差し出した。



奈央は一瞬ためらったが、小さく礼をすると、そのハンカチを受け取って目頭を押さえた。