「お疲れ様でした。」


市役所の市民課に勤める奈央は、定時になって先に帰って行く、何人かの先輩の背中に向かってそう声をかけた。


やがて奈央も、デスク上のパソコンの電源を切ると、椅子の背もれに体を預け、小さく伸びをした。



そして、デスクに左手をつくと、ゆっくりと立ち上がった。


更衣室の前に着いた奈央が、鉄の扉の横にあるスキャンにIDカードを通すと、鍵がカチャリと音を鳴らして開いた。


奈央はその音を確認すると、ノブに手をかけゆっくりと回して扉を開けた。



「あ、奈央。おつかれさーん。」


奈央の同期のあおいが、私服の白のパンツのボタンをはめながらそう声をかけてきた。


水色のブラウスとのコントラストがさわやかで、そのボーイッシュな彫りの深い顔とショートカットに良く似合っている。



「早いね、あおい。」


「何言ってるの。奈央も急いで。」


そう言うあおいに急かされるように、奈央も慌てて私服のピンクのワンピースに着替えた。



今日は帰りに、二人で最近よく行くイタリアンレストランで、食事をする約束をしていたのだ。