「大変だったな、裕美。かわいそうに…。」


そう言うと、泣きじゃくる娘を胸に抱きながら、父親はいとおしそうにその頭をぐっと引き寄せた。


孤独に悲嘆していた裕美の心は一気に父親の胸に預けられ、その胸を泣いた。



やがて、裕美は父の胸から顔を上げると、しゃくりあげながら優しい父の顔を見上げた。


「父さん。ありがとう、来てくれて…。」


優しい目の父親は、静かに頷いた。



「でも、どうして…。ずっとこの世に父さんはいるの?」


涙で目を腫らした娘の目を、父親は優しくぬぐった。



そして、ゆっくりと首を横に振った。


「いいか、裕美。親というのは、子供が辛い時、その時どんな制約があろうが、そばに飛んでくるものなんだよ。」


裕美は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、父親の顔をただ見ている。




「母さんだって裕美が事故にあった時、店を閉めて飛んで来ただろう?」


裕美は大きく頷いた。



父は優しそうに微笑むと、側で眠るケンジに目線を移した。


「ケンジ君、だったかな。」


「うん…。」


裕美は恥ずかしそうにうつむきながらそう答えた。



「彼に、想いを届けたいか。」


裕美はとっさに顔を上げた。