もう、誰とも触れることが出来ない。



今こうしてここに存在するというのに。


これほどまでに大好きなケンジのそばに、まだいるというのに。



やがて時間がたてば自分の存在など、仲間たちの頭の中からも消えていくであろう。


自分という人間がいたことなど、みんなの記憶から無くなっていくのであろう。




私は、過去なのだ。


卒業式のあの日に、ケンジにとって過去になってから、ついに一度も現在には戻れなかった。



窓の外からは、雲に隠れていた月がその姿を現し、カーテンの隙間から光を差し込ませて来た。


その光は、ケンジの顔を照らし、布団の上に影を作った。




しかし、裕美の下には、影は出来なかった。




裕美はただ、浴びることの出来ないその月の光を見つめていた。