裕美は実体のない自分を恨みながら、打ちひしがれて眠りにつくケンジの横顔をじっと見詰めた。


その元には、前日、母親が持ってきた日記が置いてあった。



高校時代と何も変わらないケンジの横顔。



思わず裕美はその頬に手を伸ばした。


しかし、その手は、無常にもケンジの顔をすり抜けていく。



やっと会えたのに、今、すぐ傍にいるのに、話すことも触れることも、いやこの場に自分がいることを気づいてもらうことすら出来ない。



やはり、体が傍にいるだけじゃあ駄目だ。


心と心が傍にないと駄目だ。



裕美のその両目から、音もなく一筋の涙がこぼれた。


その涙はケンジの頬に落ち、弾けることもなく消えていった。




裕美はこの上もなく孤独だった。