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 俺が小学五年に進学して間もない日の事。
 大きな転機が訪れた。
 妹である雫の病が発覚したのだ。
 
 
彼女の様態を医師から聞いたのか、父は青ざめた顔で俺に告げた。
「十八歳まで生きるには、難しいそうだ」
「そんな……」
 今まで、雫とは些細な事で喧嘩になっていた。
 だから、いなくなれば良い。
 雫を見る度に、そんな事を思っていた。
 しかし目の前の現実は、俺の冗談半分の願望を叶えてしまっていたのだ。
 全ては自分のせい。
 俺が彼女の体を壊してしまったのだ。
 罪悪感で胸が痛み、やがて堪え様のない涙が溢れて来た。
「俺……いつも雫と、喧嘩ばっかりしてたから……雫の事、いなくなれば良いって……思ってて……」
 父は俺の頭を強く撫でる。
 プロ野球投手である彼の手は、とても大きくて、どこか温かかった。
「お前のせいなんかじゃない。タイミングが悪かったのさ。だから、雫と喧嘩した分、今度はお前が雫の力になってやるんだぞ」
 目蓋に涙を溜めながらも、父は俺に笑顔を絶やさなかった。


 それから毎日、学校が終わると雫のいる病院へ通った。
 最初のうちは照れ臭かったけれど、日を積む毎に、雫に会う事が楽しみになっていたのだ。
 学校での出来事。
 家での出来事。
 そんな他愛もない会話を二人で楽しみ、共に笑い会った。
 
喧嘩をし合っていた、あの頃が嘘の様に感じられる時間を雫と過ごす中で、やがて俺の中である感情が芽生え始めた。
 きっと、雫も俺と同じだったと思う。
 俺と彼女の中で芽生え始めた、ある感情。
 それは兄弟間では、絶対にあってはならない、互いを異性として好いてしまう事だ。
 雫を見る度に、胸が締め付けられるような感覚が俺を襲う。