大抵は、プロ野球選手である親父や、女優であるおふくろ宛だ。
 しかし、そんな手紙の中に一枚だけ俺に宛てられた物がある。
 差出人は烏丸雫。
 現在は別居中である、俺より一つ年下の実の妹だ。

 汗だくのユニフォームを脱いでシャワーを浴び、ジャージに着替えた。
 自室でサッパリとした体を冷房に晒し、俺に宛てられた手紙の封を開く。
 中には用紙が一枚。

 七月十三日 晴天
お元気ですか?
こちらは相変わらず暑いです。
部屋の窓からの日射しは、容赦なく室内を照らします。
お兄ちゃんの教室も、そんな感じなのかな。
くれぐれも体に気を付けて、野球も良いけど無理はしないで下さいね。
倒れてしまったら、野球どころではありませんから。
私がお兄ちゃんに宛てられるのは、これくらいです。
お兄ちゃんからの手紙、心待ちにしています。

 体に気を付けなくてはならないのは雫の方だ。
 でも、俺の心配までしてくれるなんて、雫は優しいな。
 それが彼女の良い所だ。

 広いリビングには誰もいない。
 ただ、テーブルの上に大量のインスタントラーメンが置かれているだけ。
 いつもと同じ事だ。
 部屋の静けさに耐え切れず、テレビを点けた。
 そこには、よく見知った顔の女優が映画出演に関しての、インタビューを受けている。
『さて、今冬の上映を予定している映画に出演される烏丸佳代子さん、息子さんと娘さんがいるんですよね?』
『はい。撮影や舞台挨拶で会えない事は多いと思いますが、出来るだけ子供達と一緒にいられる時間を作りたいと思っています』
『やはり、お母さんですねぇ。お料理とかも、なさるんでしょ?』
 質問された烏丸佳代子は笑顔で答える。
『ええ、勿論! たまに会える日には、私が料理を作ってあげているんです。とても喜んで食べてくれるんですよ』
液晶に映し出されている女の顔に、俺は未開封のインスタントラーメンを投げつけた。
「お前の料理なんて、もう十年以上は食ってねえよ……」