たしかに、何かがない事もない。
 宮久保に給食を届けた後、教室へ戻った頃には既に給食の時間は終わっていた。
 その為、俺は給食を食べる事が出来ず、空腹の状態で午後を過ごしている訳だ。
「さっさと吐け! この野郎!」
 蓮の投球が段々と荒くなって行く。
「分かったよ! 言えば良いんだろ! 言えば!」

 俺は昼の出来事の全てを蓮に打ち明けた。
「へぇ、じゃあお前が、宮久保が皆と馴染める様に、協力してやれば良いんじゃねえの?」
「総体前に、そんな事に気を使ってられるか! 全部、宮久保次第だよ」
 蓮は口元を綻ばせる。
「相変わらず厳しいねぇ。まあ、お前らしいけどな」
「キャッチボール終わり! 集合だ!」
 数本のバットを用意して、監督は皆を集めた。
「二年はバッティング練。三年は守備に着け!」
 皆が一斉に「はい!」と返事をする。
「まずは二年の烏丸!」
 俺はバットを持ち、ホームベースに立った。
 ボールを投球するのは、現投手である鈴木先輩だ。
「すげーよ。現投手と次期投手の勝負だぜ」
「これ、烏丸が鈴木先輩のボール打っちゃったら拙いんじゃないの?」
 周りから、そんな小声が聞こえた。
 現投手?
 次期投手?
 そんな事は関係ない。
 相手が誰であろうと、可能な限りベストを尽くすだけだ。
「お願いします!」
 俺の挨拶と共に、鈴木先輩はボールを投球する。
 やはり速い。
 しかし打てる!
 そう確信してバットを振った。
 鋭い音が鳴り響くと共に、ボールは高く飛び上がり外野へ落ちる。
 皆が唖然とする中、ボールを投球した鈴木先輩だけは、どこか嬉しそうに俺を見ていた。


 陽が落ちた頃、俺はようやく帰宅した。
 家の隅に帰宅用の自転車を止め、ポストを確認する。
 中には手紙が数枚。