『分からない事があったら俺に聞け』
 ベタ過ぎないか?
 いや、それが普通か。
「なあ」
 話し掛けようとした瞬間、校舎にチャイムの音が鳴り響く。
 結局、話し掛ける事も出来ずに朝のホームルームを終了した。


 休み時間になるなり、数人の男女が宮久保の席を囲っていた。
「ねえ、県外ってどこから来たの?」
「その髪綺麗だよねぇ。手入れとかどうしてるの?」
 一斉に質問をした為、宮久保は困ってしまっているようだ。
 彼女は助けを求める様に、俺の方に少しだけ視線を移す。
 ただ隣というだけなのに、迷惑な話だ。
 俺は立ち上がり、その場から逃げる様に蓮の席へ向かった。


 教室の窓から差し込む陽の光は、昼に近付くにつれて強さを増していた。
 エアコンや扇風機の様な空調設備も取り付けられていない為、とても蒸し暑い。
 そんな教室で、皆は必死に黒板に書かれた内容をノートに書き写している。
 俺は一通りを書き終え、ノートの上にシャーペンを転がした。
 意味もなくシャーペンを転がしていると、隣から妙に苦しそうな声が聞こえて来る。
 何事かと思い振り向いてみると、宮久保は苦しそうに顔を火照らせながらも、必死に黒板の文字をノートに書き写そうとしていた。
 見るからに、授業どころではなさそうだ。
 しかし、転校初日とは気の毒に。
辺りを見る限り、今の宮久保の状態に気付いているのは俺しかいないようだ。
 気付かない振りをするのも……気分が悪いし……。
 とりあえず先生を呼ぶか。
 そう思った時だ。
 彼女の体が傾き、椅子から落ちる。
 俺は咄嗟に自分の椅子を蹴り出し、彼女の体を受け止めた。
 それに反応して、皆が俺を見るなり唖然とする。
 前で板書をしていた教師も驚いたせいか、持っていたチョークを床に落としてしまっていた。
「烏丸、どうしたんだ?」
「え? あぁの……えっと、宮久保さんが倒れたんです。この暑さですから……まあ、しょうがないと思いますよ!」