俺が彼女と出会ったのは、中学二年生の夏休み直前の事だった。

「転校生が来るらしいよ」
「こんな時期に?」
 教室では、朝からその話題で持ち切りだった。
「なあ、綾人。転校生は女の子らしいぜ」
 俺の机に乗るなり、蓮はそんな事を言って来た。
「どうでも良い。まだ知り合ってもいない女の話なんかで、盛り上がってんじゃねえよ」
「はいはい、分かったよ。お前は女になんて興味ねえよな。野球一筋のスポーツバカなんだから。でも、そんなんじゃあ、彼女とか出来ないぜ?」
「だから、そんなの興味ないって」
 教室のドアが開き、担任が入って来る。
「お前等、席に着け」
 騒がしかった教室が静まり、皆が席に着く。
「今日は時期外れだが転校生が来ている。さあ、入って来なさい」
 ドアが開き、一人の少女が入って来る。
 同時に、クラスメイト全員の視線が彼女に集中した。
 腰まで伸びた長く綺麗な髪や、細くて白い体。
 彼女の印象に対して、皆がこそこそと話し始める。
「凄い綺麗な髪。手入れとか、どうしてるんだろう」
「県外? どの辺だろう」
「やべぇ、めちゃくちゃタイプなんだけど」
 クラスメイト達の反応に動揺したのか、彼女は俯いてしまう。
 知りもしない連中の前に立たされて「自己紹介しろ」だなんて、転校というのは残酷な物だ。
 最も俺だったら、適当に自己紹介してさっさと席に座る所だけど、動揺してしまった彼女にとっては、そうもいかないようだ。
「み、宮久保沙耶子……です。……えぇっと……あの……」
 察したのか、担任は黒板に彼女の名前を書き、代わりに喋り出す。
「夏休み直前で時期は外れているが、家の事情で県外の学校から来たそうだ。皆、仲良くしてやるんだぞ」
 担任は辺りを見回し、俺の隣の窓辺に位置する空席を指差す。
「宮久保の席は一番後ろのあそこだ。分からない事があったら、隣の烏丸に聞きなさい」
 勝手な事を……。
 宮久保は席に座ると、少しだけ俺を見て視線が合うと肩をビクリと揺らし、前を向いてしまった。
 隣である俺に、何かを言わなければいけない。
 そう思ったが、話し出す切っ掛けを見つけられずにいる、といった所だろうか。
 俺から何か言うべきか……。