宮久保は左手を広げ、宙にかざして言った。
「もう夏だね」
「うん」
「夏休みになったらさ、二人でどこかに行かない?」
「どこかって?」
「どこか!」
 笑う宮久保に僕も笑い返す。
「そうだな。夏休みになったら、どこかに行こう」


 勉強の成果もあり、追試は見事に合格だった。


 テストも終わり、高校一年生の夏休みが間近に迫っていた日。
 帰り道にあるファーストフード店で、僕達は夏休みの予定について話し合っていた。
「平野君は、夏休みは予定とかある?」
「んー、そうだな、特に予定はないな。旅行にも行かないし」
「じゃあ、二人で行こうよ」
「どこに?」
「電車で、凄い田舎に」
「田舎?」
「うん。凄く良い所」
結局、宮久保は詳しい行先は教えてはくれなかった。


 夏休みに入ると、宮久保と会う回数も減ってきた。
 学校に行く事はないから、仕方がない事だが……。
 しかし、旅行はあと数日後だ。
 あと数日……そう思う程、宮久保に会いたくて仕方がなかった。


平日の午前十時という、あまり人のいない駅の改札前で、宮久保は僕を待っていた。
いつも学校で見る様な制服ではなく、白のワンピース姿に、やはり腕にはリストバンドを着けている。
 手には軽い荷物を持っている。
 日帰りだと言っていたから、実はそれほど遠くはないのだろう。
 まあ、夏休みだから帰りなんて何時になってもいいのだけれど。

 数本の電車を乗り継ぎして二時間程の所に、目的地はあった。
 そこは、彼女の言う通り、まさしく田舎だった。
 自分の住んでいる街とは違って、太陽は照り付けてはいるが、とても涼しくて過ごしやすそうな所だ。