「これはね、沙耶子さんが私に教えてくれた曲なんですよ。聞く所によると、彼女の叔母さんと二人で作った曲とか。あなたは、これをどこで?」
「音楽室で見つけました。たぶん、前の卒業生が記念か何かで置いて行った物だと思って、僕はそれをヴァイオリンで弾いていたんです。それから暫くして、平野さんが音楽室を訪ねて来たんです」
「そうですか。じゃあ、次は私が質問しますね」
老婆は紅茶を啜り、数秒の間を置いた。
「沙耶子さんに会って、何を話すつもりだったんですか?」
もしかしたら、彼女は知っているのではないだろうか。
あの日の夜にあった出来事を。
「あの、あなたは」
老婆は僕の言葉を、相も変わらぬ穏やかな口調で遮る。
「今は、私が質問しているのですよ」
僕の目を見る老婆の瞳は真っ直ぐで、視線を反らす事が出来なかった。
「……僕は……平野さんに会って……」
会って、どうしようとしていたのだろう。
「それが分からない様では、あなたが沙耶子さんに会う資格はありませんよ」
何も言い返す事が出来なかった。
しかし、俯く僕に彼女は言ってくれた。
「でも、私が沙耶子さんの代行として、あなたと話す事なら出来ますけどね」
「じゃあ、教えてください。今、平野さんは何をしているんですか?」
老婆は軽く息を吐く。
「その質問に答えましょう。ですが、誓って下さい。どんな事を聞いても、沙耶子さんが望む通りに事を済ませると」
「誓います」
「では、教えます。沙耶子さんは、私以外の人間に会う事を拒んでいます」
「どういう事ですか?」
「今まで関わって来た人との関係を清算した、という事です。だから、彼女は学校を辞めて、ここに通っているのですよ。ピアノを練習する為にね」
「え」
老婆の話からするに、平野さんは関わって来た人達との関係を清算する為に、学校を辞めたという事になる。
それなら、僕が彼女を学校で見掛けなかった事の説明も付く。
「でも、それだけの事で学校を辞めるなんて……」
「沙耶子さんなりの考えだったのでしょう。それに、彼女は凄腕です。あの調子ならプロだって夢ではありません」
「音楽室で見つけました。たぶん、前の卒業生が記念か何かで置いて行った物だと思って、僕はそれをヴァイオリンで弾いていたんです。それから暫くして、平野さんが音楽室を訪ねて来たんです」
「そうですか。じゃあ、次は私が質問しますね」
老婆は紅茶を啜り、数秒の間を置いた。
「沙耶子さんに会って、何を話すつもりだったんですか?」
もしかしたら、彼女は知っているのではないだろうか。
あの日の夜にあった出来事を。
「あの、あなたは」
老婆は僕の言葉を、相も変わらぬ穏やかな口調で遮る。
「今は、私が質問しているのですよ」
僕の目を見る老婆の瞳は真っ直ぐで、視線を反らす事が出来なかった。
「……僕は……平野さんに会って……」
会って、どうしようとしていたのだろう。
「それが分からない様では、あなたが沙耶子さんに会う資格はありませんよ」
何も言い返す事が出来なかった。
しかし、俯く僕に彼女は言ってくれた。
「でも、私が沙耶子さんの代行として、あなたと話す事なら出来ますけどね」
「じゃあ、教えてください。今、平野さんは何をしているんですか?」
老婆は軽く息を吐く。
「その質問に答えましょう。ですが、誓って下さい。どんな事を聞いても、沙耶子さんが望む通りに事を済ませると」
「誓います」
「では、教えます。沙耶子さんは、私以外の人間に会う事を拒んでいます」
「どういう事ですか?」
「今まで関わって来た人との関係を清算した、という事です。だから、彼女は学校を辞めて、ここに通っているのですよ。ピアノを練習する為にね」
「え」
老婆の話からするに、平野さんは関わって来た人達との関係を清算する為に、学校を辞めたという事になる。
それなら、僕が彼女を学校で見掛けなかった事の説明も付く。
「でも、それだけの事で学校を辞めるなんて……」
「沙耶子さんなりの考えだったのでしょう。それに、彼女は凄腕です。あの調子ならプロだって夢ではありません」

