結局、ホープという楽譜が誰の手を渡り、どうしてここに置かれていたのか、分からず終いになってしまった。
「本当に……不思議な曲だったな……」

 強い西日が窓から差し込む。
 ボーっとしている間に、放課後になってしまっていたようだ。
 チャイムに気付かないなんて、どうかしてるな。
「想太」
 ドアの方から声がした。
 長い間、聞く事のなかった声。
「真由……。どうして、ここに?」
「こっちの台詞だよ。肩は大丈夫なの?」
 彼女に対して、あんな冷たい態度を取ってしまったというのに。
真由は本当に僕の事を心配してくれている。
 それは表情をみただけで分かった。
「もう大丈夫だ。それより、今日は話があって来たんだ」

 真由は僕のヴァイオリンを見つめていた。
「ねえ、これ……触って良い?」
「うん」
 ケースを開けて、真由はヴァイオリンを手に取る。
「私は……ヴァイオリンを弾く事なんて出来ないけど、吹奏楽部で頑張ってる。それと同じ様に、想太もヴァイオリンを頑張ってたんだよね……」
「でも、何も成果はなかった。それに、皆に迷惑を掛けた。皆、怒ってるよな。真由……お前もそうだろ?」
「私は……凄いと思ってた」
「?」
「並じゃ出来ないよ。コンクール前に自分の居場所を飛び出して、一人でヴァイオリンを弾くなんて……」
 真由は僕を真っ直ぐに見据える。
 その瞳には、僕と病室で話していた時の様な弱々しい雰囲気はなかった。
「想太がしたい事をすれば良いんだよ。私は、何も言わないから」
 彼女の声はとても優しくて、聞いていて泣きそうになってしまった。
「僕は……戻りたい。真由や皆の所へ……。でも、皆は……こんな僕を受け入れてくれるか……」
 泣き出しそうな僕に、彼女は笑い掛ける。
「大丈夫だよ。想太は、皆とは違う形で頑張っていたんだから」
「真由……。今度はクラリネットを諦めないで続けてみるよ」
 彼女から目を反らし、付け加えた。
「あと……ヴァイオリンも」
 真由は嬉しそうに笑い、僕の手を取る。