リハビリは昼過ぎから始まった。
 肩を曲げたり腕を回したりする様なストレッチが、主な内容だ。
 聞こえは単純で簡単そうだが、実態はとても辛い。
 普段は自由に動いていた肩を動かす度に、激痛が走るのだ。
 それでも、リハビリを止めてはいけない。
 リハビリを終えて一日でも早く、僕は真由に会いに行くと決めたのだから。


 三学期、気付けばそんな時期になっていた。
 医者からは、もう学校に行っても問題はないと言われている。
 だから今日、僕は学校へ行く事にした。

 昼過ぎという事もあって、生徒は全員が授業を受けている。
 その為、校門や昇降口には誰もいない。
 約一カ月半しか、ここを訪れていなかったというのに、校門、昇降口、廊下、それら全てがとても懐かしく感じられる。
 とりあえず職員室へ行き、担任と話をした。
「肩の調子はどうだ?」
「ええ、かなり回復しましたよ」
「そうか。今は五限目の授業だけど参加していくか?」
「いえ、いいです。今日は、荷物の整理と……人に会いに来ただけですから」
 担任は「そうか」とだけ言い、それ以上の詮索をする事はなかった。

 幸い、音楽室は解放されており、授業として使っているクラスはいないようだ。
 隅に寄せられた机の上には、僕のヴァイオリンとホープの楽譜が置いてある。
 あの日、ホープを弾いていたヴァイオリン。
 ケースを開けて手に取ってみると、なんだかズッシリとしていて重い。
「こんな肩じゃ、まだこれは弾けないな」
 ゆっくりとケースの蓋を閉めた。
 壁に掛けられている時計を見ると、時間は五限の終了間近だった。
 真由に会うなら、授業間の休み時間である今か。
 いや、あと一限待てば放課後だ。
 真由に会うのは、それからで良い。

 誰も来ない事を察するに、どのクラスもこの時間は音楽室を使う事はないようだ。
 あの日の夕暮れ時、平野さんとホープを弾いていた、あの時間を思い出す。