かっていなかった。僕の事を理解もせず、ただ自分の考えを押し通そうとしていた」
 僕は何を言っているんだ。
 彼に真由の話なんかをしても、どうにかなる筈がないのに。
「その子は、君を思ってはいるけれど、空回りしているんじゃないのか?」
「どういう意味ですか?」
「つまり、お互いにしっかりと話し合わなければ、お互いを理解し合う事はないって事だ」
「……」
 考えてみると、意見を押し通そうとしていたのは、僕なのかもしれない。
 真由に対して嫌味な態度を取り続け、彼女を追い返してしまった。
「もしかしたら、彼女を理解していなかったのは、僕なのかもしれない」
「それなら、君は彼女に再び会って、話をするべきなんじゃないのか?」
 彼の言う通りだ。
 彼女に会って、しっかりと話をして……。
 何を話せばいいんだ?
 これからの事……僕のヴァイオリン?
 吹奏楽の事?
 悩んでいても仕方がない。
「彼女は、たぶん会いに来ません」
「?」
「でも、明日からリハビリが始まるんです。リハビリが終わったら彼女の所へ行って、しっかり話をします。それで、何かが解決するか分からないけど……」
「そんな事はない。きっと、その子は分かってくれるさ」
 青年は僕に笑い掛ける。
 どこか不器用な笑顔だったけれど、とても気分が晴れた気がした。
 青年は病室の壁に掛けられた時計を見上げる。
「もう時間だ。そろそろ行くよ」
「あの!」
 部屋から出ようとする彼を、僕は引き止めた。
「何だ?」
「あの……あなたは、まだ野球を続けているんですか?」
 背を向けていた彼は、ゆっくりと僕の方へ振り返る。
「キャッチボール程度ならな」
 それだけ言うと、彼は病室を去って行った。