もしあの時、僕が何かしらの手段を取っていれば、今の様な結果は免れる事が出来た筈だ。
 後悔が押し寄せて来る。
 目蓋が段々熱くなり、堪える事の出来ない涙が溢れ出て来た。
 僕は左手で、涙の溢れる目蓋を覆い隠す。
「全部……僕が悪いんです。僕が無力だったから、平野さんのお兄さんは……」
「そんな事はない。隼人は死ぬ事を覚悟していたんじゃないか? だから、一人で行った」
 彼は考えていたのだろうか。
 友人や親、残された人達の事を。
「そんなの、只の自己犠牲です」
「?」
「残された人達は、どうなるんですか? これから、ずっと死んだ人の事を考えて生きて行くんですよ。友人や家族、あなたも」
「確かに、そうだな。君の御両親は?」
 ここ数日、僕の両親が見舞いに来る事はなかった。
 仕方のない事だと思っている。
 去年から、二人は海外で音楽活動を行っていて、殆ど日本にいる事はない。
 父は僕にクラリネットを託して、吹奏楽を続ける事を望んでいた。
 それなのに、僕は夢を見続けて……ヴァイオリンを続けていた。
 あの日の出来事は、ヴァイオリンを続けて来た自分への罰だったのかもしれない。
 馬鹿みたいだ。
 僕が続けて来たヴァイオリンの練習なんて、只の子供の反抗みたいな物なのに。
「……」
「俺の両親の話をしよう」
 気のせいだろうか。
 彼の声が少しだけ、優しくなった様な気がした。
「俺の親父は、プロの野球選手なんだ。おふくろは有名女優。二人とも、忙しくて俺の面倒なんて全く見る事が出来なかった。それが嫌でな。小学生の頃、野球を始めたんだ。親父に見ていて欲しくてな」
 彼は僕とは逆だ。
 父親に期待されたくて、彼は野球を始めた。
 僕はというと、親に流されるようにして吹奏楽を始めた。
 しかし、楽しいと思える事はあったのだ。
 それは仲間という存在が、あってこその事だった。
「野球を始めて、仲間も出来た。親友と呼べる奴が一人いたんだ。そいつとは、同じ高校へ進学して、同じ野球部で野球をした」
「僕にも、そんな人はいました。でも、彼女は僕の事を何一つ分