目覚めると、病室の真っ白な天井が見えた。
 朝の眩しい光が僕を照らす。
 こんな朝を、どれだけ繰り返したのだろうか。
 看護師の話では、明日から右肩のリハビリが始まるらしい。
 周りの人の口振りからすると、あの日の夜から一週間も経っていない様だ。
 あの日の夜、僕と平野さんが襲われた日の翌日、彼女の兄、平野隼人と名乗る青年が僕を訪ねて来た。
 彼は言ってくれた。
『ありがとう。沙耶子を守ってくれて』
 嬉しくなんてかった。
 逆に自分が情けなかった。
 僕は平野さんを守る事なんて、出来やしなかったのだから。
 あの夜以来、平野さんには会っていない。
 気が狂ってしまっていて、面会が出来ないと聞いている。


 看護師が持って来た昼食を済ませた昼過ぎ、吹奏楽部の友人、岸堵真由が見舞いに来た。
 彼女は重い足取りで、ベットの横の椅子に腰掛ける。
「想太……腕の調子は……」
 僕は真由から目を反らし、無感情に返答する。
「順調さ。明日にはリハビリも始まるし」
「そうなんだ」
 彼女の表情は安堵に満ちていた。
 その表情が、どうしてか憎たらしい。
「どうして、そんなに安心しているんだ?」
「……当たり前の事だよ。私は……想太が無事で本当に良かったと思ってるから」
「……嘘だね」
 僕の一言で、病室にポツリと沈黙が落ちた。
 真由はスカートの裾を強く握る。
「どうして、そんな事を言うの?」
「本当は、分かっているんだ。君は、僕にクラリネットをやらせたがっている。今の僕は、こんな状態だ。看護師の話によると、平野さんも気が狂ってしまっているそうだ。なら、君はこの機を逃す事はないんじゃないのかな?」
「何を言っているの……?」
 彼女の声が、段々と震えていくのが分かった。
 それでも、僕は言葉を続けた。
「つまり君は僕に、こう言いに来たんだ。『もう、放課後にヴァイオリンを弾く意味なんてない。吹奏楽部へ戻ろう』って」
 彼女の声が震えていく。
「どうして……どうして、そんな事を言うの!?」