僕は少々顔を引きつらせる。
「そういえば、赤点取ったら追試だよね?」
「ああ」
「私が勉強教えてあげようか?」
「いいのか?」
「もちろん!」
 宮久保は嬉しそうに頷いてくれた。


 休日に、駅近くの図書館で勉強する事になった。
 勉強はあまり好きではないが、なんだか待ち遠しい。
 宮久保を駅まで送った後、今にも騒ぎ出したい気持ちを抑えながら、僕は思いっ切り家まで走った。


 
その日、宮久保は制服で来た。
 彼女曰く、制服の方が気合いが入るそうだ。
 まあ、僕もそんな気分で制服を着て来たのだけれど。
 図書館の隅の机に二人で腰掛けた。
 勉強の為、止むを得ないのは分かるのだが距離が近い。
 彼女の呼吸の音が聞こえたり、長い髪が時々頬に触れる。
 その度に、少しだけ赤面した。
 勉強の方はと言うと、教え方がとてもうまく、すぐに問題を理解する事が出来た。
始めてから二時間程して、宮久保は伸びをした。
「んー! そろそろ休憩しようか」
「ああ。そうしよう」
 僕と宮久保は外の自販機でジュースを買った。
 授業料として、彼女の分の代金は僕が出した。
 缶を開けて、口に運ぶ。
 その時、彼女の腕に着いているリストバンドが目に止まった。
「なあ、気になってたんだけどさあ、そのリストバンド。いつも着けてるけど、何?」
「ああ、これ? これは、前に大事な人から貰った物なんだ。大事な人から……」
 儚げな表情を作って、リストバンドを見る。
「大切な物なんだな」
「うん、とっても」
 宮久保にも、過去にそんな人はいた。
 自分が関わる事の出来ない彼女の過去。
 そう思うと、少しだけ悲しくなった。
 雲に隠れていた太陽が顔を出し、眩しい日差しを放つ。