彼女達がいなくなって、私はトイレの床に下着姿で横たわっていた。
 脱がされた制服は、全て便器の水に浸されている。
「本当に惨めで汚ないわね」
 上から由佳先輩の声がした。
「どうして……折角、優しい先輩に出会えたと思ったのに……」
 フンっと、由佳先輩は私を鼻で笑う。
「もう、誰も天道の事なんて信じないよ。この際だから言うけど、ユニフォームを裂いたのは私だよ。普段、あれは試合でしか使わないから、部室に置きっ放しで都合が良かったんだよ。だから、今日の朝早くに部室に忍び込んだの」
「どうして、そんな事を?」
 由佳先輩は制服のボタンを外し、右肩をさらけ出した。
 彼女の右肩には、何重にも包帯が巻かれている。
「あんたが来る前、試合で肩をやっちゃってね。それっきり腕が上がらないんだよ。だから、たまに部活に顔を出してる。サボりなんていうのは嘘。ただ、天道が羨ましかった。まるで、昔の私を見ているみたいで。でも、あんたのバスケも終わりだね」
 今、私の中で一つの感情が生まれた。
 それは、私を妬むが故に貶めた、この女への抑え切れない程の怒りだった。


 翌日の朝、私は由佳先輩を昇降口で待っていた。
 昨日のままでは、収まりが付かなかったのだ。
 当の本人が来た。
澄ました様な顔で、チラッと私を見る。
 そして鼻で笑った。
 彼女の行動が、私の怒りを脹らませる。
 私は彼女の直ぐ前に駆け寄り、行く手を阻んだ。
「おはよう。天道」
 爽やかに挨拶をされた。
 そんな由佳先輩にはお構いなしに、私は彼女に言う。
「ちょっと用があるんですけど、一緒に来てくれませんか?」

 私が由佳先輩を連れて来たのは、体育館の倉庫だ。
 この時間、ここには誰もいない。
 つまり、それは何も遠慮する事がないという事だ。
 今の私は、由佳先輩に何をしでかすか分からないから。
「用って何?」
 由佳先輩は、私に対して気取る様な笑みを向ける。
「私は……あの日だけでしたけど……由佳先輩を本気で信頼していました。でも、それも昨日で終わりました」
「そんなつまんない話をするのに、私を呼んだの?」