ジャージを着ているからだろうか。
「返すのはいつでも良いよ」
 由佳先輩はそう言っていたけれど、明日には返そう。
 本当に良かった。
 あんな優しい先輩に出会えて。

 
翌日の昼休み、校舎裏へ行ってみた。
 あの少年が気になったからだ。
 クラスの友達から聞いた話によると、少年の名前は平野隼人というらしい。
 物陰から、こっそりと顔を覗かせる。
 木蓮から降り注ぐ木漏れ日の下に、少年と少女がいた。
 二人は仲睦まじく、楽しそうに話している。
 その光景を見て私は思った。
 ああ、きっと彼は信頼できる人を見つけたんだな。
 私と同じ様に。

 部活へ向かう私の気分は、珍しく軽快だった。
 今日は由佳先輩がいるからだ。
 あの人がいれば、きっと大丈夫。
 そんな気がした。
 部室の前で、少しだけ深呼吸をする。
「よし!」
 思い切って、ドアを開けた。
 室内には、既に私以外の一年生や二年生の部員がいる。
 由佳先輩は、まだいないようだ。
「こんにちは」
 とりあえず軽く挨拶をしただけなのだが、全員の不気味な視線が私に集中した。
「ちょっと、天道」
 先輩の一人が私に声を掛けた。
 なぜか、彼女の声は沈んでいる。
「これ」
 私に何かが差し出される。
 それはボロボロになった、数人分のユニフォームだった。
 袖等の至る部分が裂けていて、もう使い物になりそうにない。
「あの……これは?」
「もう全部分かってるんだよ! あんたでしょ!? これやたの!」
「え?」
 そんな事、全く身に覚えがない。
「このユニフォームがあんたのロッカーから出て来たのが、何よりの証拠だよ! それに商人だっている」
「そんな……」